体感せよ!
街角
のバンクシー。
“壁に絵を描く”という行為に、人類は先史以来、魅了されてきました。学校の教科書で目にする洞窟壁画はアートの始まりであり、祖先の高い表現能力を示す芸術です。その痕跡は、数万年前のものとは思えないほど自由そのものです。
そのような絵をハッと思い出させてくれるのが、現代のストリートで表現を続けるアート界の異端児“バンクシー” です。2018年に、少女と赤い風船を描いた作品が高額落札されるや、額に仕込まれたシュレッダーで突如細断。瞬く間に世界中で報道され、話題をさらいました。日本では、バンクシー作品と思われるネズミの絵が発見されると、大手メディアやSNSで拡散、認知度が上がりました。しかし創作活動の全貌や動機など、その真相が分かる者は依然少なく、謎に包まれた存在です。
本展は、世界各都市を巡回し人気を博した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」の傑作群を、日本オリジナルの切り口で紹介する意欲的な展覧会です。プライベート・コレクター秘蔵のオリジナル作品の展示に加え、活動の主戦場である“ストリート” に焦点を当て、テレビ局ならではの街並み再現展示で没入空間を体感していただきます。 ―― それはまるで“映画のセット”。
ストリート・アーティストの先人であり、現代アートの巨匠でもあるヘリングやバスキアの次世代として、いま世界で最も注目を集める時代の先駆者“バンクシー”。その活動の意味を、幅広い世代に楽しく理解していただける貴重な機会となります!



Love Is In The Air(部分)2006年 個人蔵
バンクシーって誰?
自作に約1億5000万円の値がついたとたん、仕込んでいたシュレッダーを作動させて作品を切り刻んだり、コロナ禍のロンドンの地下鉄でくしゃみをするネズミを描き込んだり……。自分の作品をきっかけに大騒ぎをする人たちをあざ笑うかのように、ゲリラ的な表現活動を繰り返している覆面アーティスト、バンクシー。
イギリスのブリストルで少年時代を送ったと考えられている彼は、1990年代よりこの街を舞台にストリート・アートを描き始めた。
2005年メトロポリタン美術館や大英博物館などの有名美術館に、許可なく自作を展示し始めた頃より広く知られるようになり、近年は遊園地のプロデュースや映画の監督なども手がけている。
移民や人権問題、大量消費社会への警鐘など、政治的・社会的テーマを積極的に取り上げることでも知られるバンクシーは、SNSを戦略的に使った活動でますます注目されているグラフィティー・アート界のカリスマなのだ。
会場に世界各地のストリート作品が
街並みごと出現‼
世界中に分散するバンクシーのストリート・アート。
その代表作品を選りすぐって、テレビの美術チームが、美術館とは異なる会場空間で街並みごとリアルサイズに再現します。
バンクシーのストリート作品を見るために世界一周の旅へ出なくとも、活動の3大地域と言われるヨーロッパ、アメリカ、そして中東の街並みをこの会場で体感いただけます。故郷イギリスのブリストルからロンドン、映画にもなったニューヨークでの活動や自主企画展で一世を風靡したロサンゼルス、そして幾度も訪れては作品を残し続けている中東。映画のセットのようなリアルな街並みを会場に出現させ、全面撮影OKの新感覚没入型展示を創出します。


プライベート・コレクター秘蔵の
貴重な作品群も一挙公開!!!
街なかや美術館でも通常は見ることのできない、プライベート・コレクター秘蔵のオリジナル作品を一挙公開。
バンクシーに代わって作品の真贋を認証するペスト・コントロールにより本物認定された作品の数々で、バンクシーの足跡とその謎に迫ります。
会場で街並みごとリアルサイズに再現するストリート作品と、コレクターからお借りする額装作品の比較展示は、本展でしか見られない貴重な体験となります。
また、キャンバス、段ボール、鉄板、木板、紙、石の彫刻、リトグラフ、ポスター、アルバム・ジャケットほか、バンクシーの作品制作風景を収めた写真を含め、多種多様な表現手法や出展品にもご期待ください。
そして今回、特別出展として、イギリスのファッション・デザイナーで、アートに造詣が深くバンクシー好きで知られる、ポール・スミス氏からお借りする希少な油彩画《コンジェスチョン・チャージ》も必見です!

Congestion Charge 2004年 ポール・スミス蔵 ©

再現展示紹介・会場構成
- 1
- 2
- 3
CORNER 1UK
エントランスを入ってすぐ来場者を出迎えるのは、主にイギリスで発表された作品群のエリアから始まる。現在は見られなくなってしまった《Spy Booth》。公衆電話を取り囲むスパイ風の男達を描いたもので、国家による監視を風刺していると考えられている。 そして、2020年にブリストルで発表された《Aachoo》。急な坂道に描かれた本作では、老婆が大きなくしゃみをし、口から入れ歯も飛び出している滑稽な様子が描かれているが、これはコロナ禍にマスクをつけず飛沫やウイルスが拡散することへの警鐘とも考えられている。
次に見られるのはミュージカル 『レ・ミゼラブル』 のポスターをモチーフにしたパロディ壁画《Les Miserables》。2016年にロンドンのフランス大使館前に出現したこの作品は、フランス警察がカレーの難民キャンプで催涙ガスを使ったことへの抗議と考えられている。 次にバンクシーが2014年にブリストルで発表した《Girl with a Pierced Eardrum》が現れる。こちらはフェルメール作《真珠の耳飾りの少女》をモチーフに、その耳飾りを黄色の警報器で表現した作品だったが、後にマスクが付け加えられた。そしてこのコーナーの最後に2008年に作品を描き、現在は作品がすでに消されてしまったWhitewashing Lascaux》。ロンドンのテムズ川南岸のターミナル駅「ウォータールー(Waterloo)」駅の高架下のトンネルを再現。


CORNER 2AMERICA
バンクシートンネルを抜けると主にアメリカで発表された作品が並ぶエリア。まずは、バンクシーが 2013年にニューヨークで行ったプロジェクト「Better Out Than In」の中で描かれた 《Hammer Boy》の再現だ。このプロジェクトは、バンクシーがニューヨークで毎日一つずつ作品をストリートに描き、その写真を Instagram に投稿していったもので、その全貌を紹介したパネルも展示される。
続いて2006年Banksy (バンクシー) はアメリカでは初となる、大型規模のエキシビション「Barely Legal」を開催。その個展で発表され、本物のインド象を展示した 《Barely Legal》の再現。当時、実際には37歳の生きたインド象「Tai」の全身を赤色と金色でボディペイントしたもので、これは「Elephant in the room(部屋にいる象)」という英語の慣用句を用いて「問題があっても、誰のそれに触れようとしない」という意味が込められている。特に「世界に貧困が眼前にあるのに、多くの人が何も行動を起こさない」状況に対してのメッセージと考えられている。
生きた像にスプレーペイントをして展示したことで、当局から激しい非難を浴び、物議を醸しましたが、エキシビションのタイトル「Barely Legal (辛うじて合法)」が示すように、LAの動物愛護団体へ事前に像にスプレーペイントして展示する許可は取っていたので、結果的に大きな問題へは発展しませんでした。

CORNER 3中東
次は主に中東で発表された作品が並ぶエリア。まずは、今回の展示会のイメージ作品となっている《Flower Thrower》。バンクシーが 2005年にパレスチナで発表した、火炎瓶の代わりに花束を投げる人物を描いた巨大な壁画。イエス・キリスト生誕地としてしられるベツレヘムの街のガソリンスタンドの裏側に描かれた作品で、ほぼ現地同様サイズの壁画を再現している。
そして、イスラエルによる軍事行動で廃墟と化したパレスチナ・ガザ地区に描かれた子猫の壁画 《Giant Kitten》を街並みごと再現。2014年夏、7週間におよぶイスラエルの軍事攻撃の受け廃墟化したガザ地区の家の壁に描かれており、被害を受けた小さな地区でのパレスチナ人の現在の窮状と苦しみに光を当てた内容となっている。バンクシーはこの作品についてウェブサイトで意図を説明している。「地元の人が来て「これはどういう意味だ?」と聞いてきた。私はこう答えた。インターネットの人々は破壊されたガザの廃墟は置き去りにして、子猫の写真ばかりを見ている。だから自分のサイトで悲惨なガザ地区の現状と対照的な陽気な子猫の絵を描き、そのギャップでガザ地区の現状を伝えたかった。」そこで、バンクシーは、2015年2月27日に自身のサイトに約2分のガザ訪問時に撮影したビデオをアップロードして、国際的な注目を集めたという作品。
本展最後の空間では、2018年のサザビーズのオークションで切り刻まれた少女と赤い風船の基であり、2002年にロンドンで描かれた《Girl with Balloon》が再現される。
